【フランコさんのイタリア通信。】

ボーボことクリスチャン・ヴィエリの競技場の外での活躍ぶりは、なかなか目に余る‥‥じゃない、ほんとうにたいしたものです。
ミラノのディスコに夜な夜な出没するなんて当たり前。マルディーニと組んで、スポーツウエアのブランドを発表する才覚もあるし、髪の毛の本数より多いんじゃないかというくらいの多くの女性との付き合いはイタリアのパパラッチたちをおおいに喜ばせています。
もちろん、そんな派手な彼だけに年収もイタリアサッカー界のトップクラス。年に1400万ユーロくらいを稼いでいます。
彼は、昨年は、ゴール数も一番のアタッカーでしたから正真正銘、インテルのアイドル、でした。「でした」‥‥って、過去形?そう、これは、ほんの数カ月前までのことなんです。

ボーボ・ヴィエリは、今、精神的危機状況にあります。
多過ぎる「元彼女」が原因かというと、そうではなくて、実は彼の所属するインテルのティフォーゾ(熱狂的サポーター)と彼とが、うまく行っていないのです。
ヴィエリインテルに入団した時には、ティフォーゾのアイドルは、まだインテルにいたロナウドでした。ヴィエリは、入団したとき、あまり熱心な関心は持たれなかったのです。
ヴィエリだって決して二流の選手ではありませんでしたが、ロナウドが見せてくれた大きな夢の一部を彼が担うということは、なかったのです。
映画でも同じですよね。主役がいる場面での脇役は、例え名優が演じていても主役ではありません。ヴィエリロナウドという主役がいてこその名脇役みたいなものでした。
さて2002年8月、主役ロナウドレアル・マドリードに移ります。
その時、インテルのティフォーゾたち、あのシャツの黒青を人生の色とまで思う人たちは、ロナウドに替わるアイドルを決めました。
そう、彼らの選んだ「お気に入り」は、ヴィエリその人だったのです。
そうなると、ヴィエリのナンバー「32」が付いたシャツは、イタリア中で飛ぶように売れるようになりました。

ヴィエリのどこが良いって?あの向こう見ずで勇敢な攻めだね!
──というわけです。
試合には勇猛果敢に立ち向かっていく彼のやりかたや、仲間がみんな苦しんでいる時にチームを引っぱる役を果たす彼の責任感の強さが、人々を夢中にさせたのです。
こうして、ロナウドなき後のインテルでは、ヴィエリとティフォーゾたちとの愛の物語が始まったのですが、すべての愛には、危機の時がくるんですねえ。彼らの間にも不協和音が響き始めます。

  • ヴィエリ、八つ当たり。おいおい、それは大人げないよ。

ヴィエリってやつは、コマーシャルに出過ぎじゃないか?
それより、テレビ出演が多すぎるんだよ。
映画の「カサブランカ」や「山猫」じゃあるまいし、あの時代の若くて美しくて金持ちで名の通った遊び人たちみたいに夜な夜な流行りの店に通っているヴィエリさんよ、もうちょっとマジメにサッカーをやってくれないかな?
そんなこんなで、ついに、インテルのティフォーゾたちはヴィエリに物申すことにしました。
ある日のミラノのサン・シーロ競技場では、ヴィエリがボールを触る度にブーイングです。
敵のティフォーゾじゃありませんよ、インテルの、ヴィエリのティフォーゾたちですよ。
ヴィエリは、腹立たしさを募らせます。そして、そのための八つ当たりをあちらこちらで見せ始めます。
イタリアのナショナルチームアズーリトラパットーニ監督が彼を交代させた時には、彼は、なんと監督に向かって水のボトルを投げ付けました。
トラパットーニ監督は、適格な判断をしました。投げられたボトルには気付かなかったふりをして、父親のようにヴィエリを諭すことで、この時のことは終わりにしたのです。
でもヴィエリの八つ当たりは止まりません。
今度はブレシャの競技場で、ゴールを決めたその後で、自分のインテルのティフォーゾたちに向かってなにか叫びながらボールを蹴ったのです。
その時は彼が何と言ったのか、誰にも聞こえませんでした。
ところが、テレビ映像の彼の唇の動きから、それは暴言だったと分かってしまいました。
次はまたもやサン・シーロ競技場で、今度はゴールを失敗したあとに、ヴィエリはテレビ局のマイク装置を何度も蹴って怒りをあらわにしました。
こんなだだっ子のような状態のヴィエリと、そんな彼をさらにいらだたせ、同時にうんざりしているティフォーゾたち。どっちもどっち、というところでしょうか。

  • 11月29日、運命の日。 ヴィエリは雪辱を果たすのか? それとも三行半を突きつけられるのか?ところがこの両者、目下、休戦中なのです。

11月29日に大事な試合があるからです。相手は宿敵ユベントス
ヴィエリもティフォーゾたちも、その夜をじっと待っています。
その夜、なにかが起きるはずだ、と。
ヴィエリは、この宿敵との勝負で、全力をあげて、試合のことだけを考えて、彼がまだインテルの旗手であることを示さなければなりません。
一方のティフォーゾたちは、ヴィエリに彼らの夢を託し続けて良いものかどうかを見定めに来るでしょう。
果たして愛は戻ってくるでしょうか、
それとも、来夏のカルチョメルカート(サッカー・マーケット)での大きな衝撃に対する準備を、僕らは、しなければならないのでしょうか‥‥?
若いアドリアーノパルマから来る事になっていますから、インテルは高価な「重荷」をメルカートで売りに出さないとも限りません。
「重荷」で終るのか、ヴィエリ‥‥!?
http://www.1101.com/francorossi/2003-11-24.html