【フランコさんのイタリア通信。】

僕の愛するイタリアのサッカーは、30年前には世界一の素晴らしさを誇っていました。それを裏付けするように、20年前には経済的にも世界一裕福と言われていました。ところが、10年前ころから、なにやら暗雲がたちこめ始めたのです。

  • 現在はどうでしょうか?

なんと、イタリアサッカーは世界でも最低の借金地獄のまっただ中にあります。

昨年のこと、イタリア政府は、ある条例を発しました。現イタリア首相のシルヴィオ・ベルルスコーニACミランの会長でもあることは、ここでも何度もふれましたね。彼がトップをつとめるイタリア政府が考えた条例とは、総てのイタリアサッカー組織の、銀行からの借財は、これを10年間のうちに返済すればよろしい、というものでした。しかも、その間は無利子で。
この条例にはEUからの抗議が来ました。当然です。EUの中で、こういう条例をイタリア一国だけが有効にすれば、他の国は迷惑を被るだけですからね。
イタリアにとっては苦肉の策のこの条例をEU議会が協議している間にも、当のイタリアでは経済的な犠牲者が続出しました。

  • まず「チリオ」。Cirioと書きます。

もしかして皆さんは、このメーカーのトマト缶をご存じかもしれませんね。イタリアでは屈指の食品業者です。社長であるセルジョ・カニョッティは、数カ月前まではラツィオのオーナーであり、サッカー協会の会長でもありました。
このチリオが、ミラノ市場で急速に株を下げ、カニョッティは、ローマの有名な銀行の頭である金融組織に、ラツィオを譲渡せざるを得ませんでした。
それでも借財の返済に追いつかず、年明け1月のカルチョメルカート(サッカー・マーケット)では、数人の選手を売りに出すことでしょう。
これに反応して、ユベントスはスタンとオッドを欲しがっており、インテルスタンコヴィッチ獲得に乗り出しています。彼については、ミランも興味を持っています。

  • ナカタはどこへ行くのかな?

ラツィオの次に困難におちいったのは、パルマです。パルマのオーナーは、「パルマラット」Parmalatというこれもヨーロッパでも大手の食品業者です。
パルマラットカリスト・タンツィ社長は、息子をパルマの会長に据えています。しかし、パルマラットもミラノ市場で崩壊し、その運営は6割を減少せざるをえなくなりました。
パルマの選手たちへの給金支給は、そんなわけで遅れています。ラツィオの選手たちに至っては、ここ数カ月分を受け取っていません。ひどい状況です。
パルマも重要な選手を、つまり高値で売れる選手を、何人かメルカートに出さないわけにはいかないでしょう。
ほとんど決まっているのが、ブラジル人のセンターフォワードアドリアーノで、インテルに譲渡されるようです。その額は2千万ユーロほどと言われています。
センターフォワードからはもうひとり、ジャルディーノについて、ユーベが動いております。そしてパルマと言えば、みなさんにとっては中田のことが気になるでしょうが、インテルザッケローニ監督が彼を評価していることもあり、中田についてはインテルへの移籍も考えられます。
その他、ディフェンダーのボネラがミランへ、ゴールキーパーのフレイがチェルシーへ、などの可能性があります。チェルシーはイギリスのチームですが、
サッカーマニアのロシア人であるアブラモヴィッチ会長は、最近数えただけでもクレスポ、ヴェロン、マケレレなどの購入のために、世界でも例を見ない大盤振る舞いの真っ最中です。
イタリアでは、パルマラツィオは選手を売らざるを得ず、インテルミラン、ユーベは「いつでも買いましょう」の姿勢、という構図です。

  • 石油とサッカーの密な関係。

「買いましょう組」のユーベには借金はありません。ですから問題は無いとして、インテルミランは組織としては借金まみれのはずです。それなのに、どうして「買いましょう組」でいられるのでしょうか‥‥?
答は至極簡単。どちらもオーナーたちがイタリアきっての富豪だからです。このところ何回もインテルについて、僕は書いていますから、もうご存じでしょうが、インテル会長の座に踏み止まったモラッティは石油業者です。ということは‥‥そうです、イラク戦争が皮肉な事にも彼に幸いしているのです。イタリア国内での石油価格が上昇していますからね。
一方のミランの会長であるベルルスコーニ首相は、首相ですから国会そのものでも彼の政党が多数をしめているわけで、これを利用して、企業家たちのお気に召す条例の数々を認めさせています。もちろん企業家たちの中には、ベルルスコーニ自身も入っていますよ。
イタリア・サッカー界の借財は世界一です。でも、石油価格が上昇し続ける限り、ベルルスコーニが政府に留まる限り、ユーベはもとよりインテルミランも、要するにイタリア3大チームは、破産の危機とは無縁のようです。妙な構図ですけどねえ‥‥。
http://www.1101.com/francorossi/2003-12-22.html