【ホンマヨシカの「セリエA・未来派宣言」】

今季のインテルとサンプから見えてくるもの

  • 「速攻もベル・ジョーコたり得る」

実は、今季2回目となるこのコラムでは、チャンピオンズリーグ(CL)でインテルが、アーセナルとのアウエー・マッチに3―0で快勝したことについて書こうと思っていた。それこそ、ひいきのインテルを褒めまくるつもりで、頭の中で文章をまとめていたのだが、第3節のサンプドリア戦を見て、少し考えを改めることにした。
それでもアーセナル戦での勝利は、長年インテリスタインテル・ファン)をやってきた僕にとって、衝撃的な試合内容だった。
この試合の2日前、クーペル監督はこう語っている。「相手のすきを突いて、速攻を狙った戦術は功を奏するだろう。しかしこの戦術は、イコール・ディフェンシブなサッカーではない。この戦術は単に結果を得るためのもので、速攻もベル・ジョーコ(イタリア語で「綺麗なプレー」「きれいな試合」を意味する)たり得る」
実際、アーセナル戦でのインテルは、まさにクーペルが語った通りの速攻戦術「ベル・ジョーコ」を披露することになる。しかし僕は当初、昨シーズンのCL準々決勝、バレンシアとのアウエー・マッチのような展開を予想していた。つまり、超守備的サッカーで相手に一方的に攻められながらも、一瞬のすきを突いて、マルティンスのスピードを生かした速攻で、数少ないゴールチャンスを生かすゲーム展開になるだろう、と予想していたのである。

ご存じのように今オフのインテルは、かねてから指摘されていた中盤両サイドからの攻撃の欠如を埋めるため、ファン・デル・マイデ、キリ・ゴンザレス、ルシアーノ、ファディガ(試合に復帰できるかどうか未知数だが)と、4人の選手を大量補強した。しかし、開幕戦となったモデナ戦(ホーム)、第2節のシエナ戦(アウエー)を見る限り、今季のインテルは、ディフェンス陣が安定感を増したものの、左右のサイドから有効な攻撃を仕掛けることもなく、何ら昨シーズンと変わっていないのではないか、との印象を持った。スクデット争いのライバルであるユベントスミラン、ローマ勢2チームと並んで開幕2連勝をしているが、試合内容だけを見ると、インテルはライバル4チームより明らかに劣って見えたのである。
そんな不安を抱きながら、僕はアーセナル戦をTV観戦していた。ところが結果は前半だけで3ゴールを挙げたインテルが、アーセナルを圧倒。相手に気おされてラインを引き過ぎることなく、中盤でのプレッシングからボールを奪うと両サイドから攻撃を仕掛ける。特筆すべきは、前半41分の3点目だ。センターからエムレが供給したスルーパスに「オバオバ」の愛称で知られる快速マルティンスが反応。トゥーレのマークから抜け出してファイン・ゴールを決め、インテルの勝利を決定的なものにした。
昨シーズンのインテルは、先制すると、すぐに守りに専念して引き過ぎ、自陣内に釘付けにされるゲーム展開が少なからずあった。だが、この試合のインテルは、リードを奪った後も守備的にはならず、まったく文句の付けようのないサッカーを披露していた。
こうなると、次のカンピオナートが楽しみだ。

そんなわけで僕は、ホームでのサンプドリア戦に素晴らしい試合内容を期待しながら、サンシーロのスタンドでインテルを見守ることにした。
確かにインテルは、開始早々こそサンプドリアを圧倒していた。しかし試合が進むにつれ、サンプの激しいプレッシングにさらされ、苦しい展開を強いられるようになる。特にサイドのスペースを消されたため、インテルは有効なクロスが上げられず、逆にキリ・ゴンザレスが位置する左サイドから再三にわたってサンプドリアに攻め込まれた。試合は両チームともゴールを奪えないままスコアレス・ドロー。
この試合を観戦して、あらためて感じたことがある。それは、プレミアリーグのチームと違って、セリエAの各チームは「相手の長所を消すサッカー」に長けていると言うことだ。特に上位チームとアウエーで戦う下位チームの場合、その傾向が顕著に表われる。サンプドリアは、アーセナルのようにオープンスペースを相手に与えなかっただけではなく、何度か決定的チャンスも作り出し、互角以上の試合を見せた。第3節のユーベ、ミランラツィオの試合結果を見ても分るように、CLを戦った4チームに疲労が残っていたこともあるだろう。
いずれにしても、この試合で僕が痛感したのは、今シーズンのインテルに対する評価を見極めるには、やはりライバルとの直接対決まで待たねばならない、ということだった。

さて、ここでサンプドリアのノベッリーノ監督について触れておきたい。
僕はこれまで、多くの監督の現役時代を見てきた。その中には、すでに当時から、将来監督として成功するであろう資質を見せていた監督もいるし、そうではなかった監督もいる。
前者の代表は、マンチーニラツィオ)とカペッロ(ローマ)だ。現役時代のマンチーニは、まるでアヤックスでのクライフのようにピッチ上でチームメートに指示を出していたし、カペッロはポジションセンスと状況判断に非凡さを見せていた。アンチェロッティミラン)やリッピ(ユーべ)、それにコロンバ(レッジーナ)も、このタイプだろう。5人に共通した資質を挙げるなら、それは視野の広さと状況判断の良さだ。現在の選手の中では、中田英寿が該当しているように感じるのだが、どうだろうか。
話を戻すと、後者――つまり現役時代に監督になるとは思われなかったタイプの代表格が、このノベッリーノだった。ボクシング元ミドル級の世界チャンピオン、カルロス・モンソンに顔が似ているところから「モンソン」と呼ばれていた現役時代のノベッリーノは、右サイドのウインガーとしてイタリア代表に1試合(78年に行なわれたトルコとのテストマッチ)出場した経験もあり、それなり以上の活躍をした選手である。しかし、そのプレースタイルは、一時代前の南米の選手のようだった。自分の足下だけを見て、対峙するマーカーの股間にボールを通すことを好むような選手で、視野が狭く、試合の状況全般を把握する能力に欠けていたような印象が強い。現役時代のノベッリーノに、監督としての資質を見出せなかったのは、僕だけではないだろう。

  • ノベッリーノはサンプで成功するか? そして柳沢は?

ノベッリーノをよく知る人たちも、彼には同じ印象を持っていたようだ。ミラン時代のチームメートだったカペッロ、そしてアスコリ時代の監督だったマッツォーネがそうである。しかし、初めてノベッリーノと「監督対戦」した際に、ふたりともノベッリーノが監督として成功の道を歩み始めていることに、驚きを隠そうとはしなかったという。
ベネチアピアチェンツァなどの監督を務め、現在はサンプで指揮を執るノベッリーノ。彼に名門クラブの監督が勤まるのか、それとも地方クラブの名監督で終わるのか、今はまだ分らない。だが、少なくともノベッリーノの現役時代のプレースタイルを思えば、現時点で彼が周囲の予想を大いに裏切り、監督として大成功していると言ってもよいだろう。
最後に、そのノベッリーノの下でプレーしている柳沢敦について触れておこう。この試合では、わずか7分足らずの出場機会しか与えられなかった柳沢だが、これまでの途中出場と同様、この試合でも限られた時間内に存在感を示していた。
ノベッリーノは、選手を信頼してじっくり使うタイプのようだが、ライバルであるマラッツィーナの現状を考えると、柳沢のスタメン出場もそれほど遠いことではないかもしれない。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/italy/column/200309/0923homm_01.html
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/italy/column/200309/0923homm_02.html